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映画、音楽などについて書いていきます。備忘録。

「リップヴァンウィンクルの花嫁」岩井俊二[映画]


リップヴァンウィンクルの花嫁 (2016) 映画予告編

 ★7

派遣教員の七海はSNSで知り合った鉄也と結婚。そのさい結婚式の親戚を代行するサービスを行っている何でも屋、安室と知り合う。浮気の濡れ衣を着せられ離婚に追い込まれる七海はいき場所を失い、安室に助けを求めるが…。
 
 
※ネタバレ含みます
この作品が確実に好きなはずなのに、好きになりきれない自分もいて。岩井作品のなかでは好きな作品だと思います。
3時間の長尺にもかかわらず観客を飽きさせない手腕は見事。体感時間はずっと短く感じました。
 
(劇場鑑賞のみですので、台詞を一言一句正しく引用出来ていませんがそこはご了承ください。)
 
岩井監督はテーマは決めずにこの作品を撮っており、この作品を”スケッチ”であると語っています(完成後、この映画は本当に”リップヴァンウィンクルの花嫁”という物語になったか?と自答したそう)。多様な読みが許される作品だからこその面白さもあるとは思うのですが、あくまで”スケッチ”なので、少し散漫な印象がありました。それが味わいになる作品もあるとは思うのですが、この映画の場合そこが魅力でもないような、、。
 
また真白が「幸せの限界がありんこくらいしかない」という台詞を語るシーンは、劇場ですすり泣く声も聞こえたりしたのですが、なぜかすっと入って来ませんでした。それは、真白というキャラクターと実際のCoccoのパーソナリティーがごっちゃになってしまってるせいなのかも。
というのも、岩井監督がこのシーンの台詞を書く際「Coccoなら何をしゃべるか」と言う観点から想像して書いたらしいのですが、そのやり方もあってか人物造形がいびつになってしまっている気がしました。そのせいで真白が一人の”生きている人間”として感じられなかった。
 
また、終盤の真白の母親と安室が裸になるシーンも、劇場で泣いてる観客の方もいたのですが、なぜか感情移入しきれない自分がいて不思議でした。ただ、決して嫌いなシーンではなかったです。
 
裸になり、そんなの「恥ずかしいだけ」だと語る真白の母。この物語にはたくさんの偽物がでてきます。結婚式の親族代行、SNSでの顔の見えないつながり、偽名、嘘の目的で雇われる高額バイト、、
誰もが皆本当の自分でいたい。それでも偽るのは「恥ずかしい」からなのかもしれない。本当の自分は滑稽で惨めで、そんな自分を見せるのは「恥ずかしい」ことだから。
この映画には、「恥ずかしさ」に泣き笑いする私たちに対するあたたかな視線があります。
偽物のなかからも本物は見つけられるかもしれない、と、偽ることに慣れた私たちをそっと肯定してくれる優しい作品なのです。そこはこの作品の好きになれた部分。
 
また、真白の人物造形には疑問がありましたが、その他のキャラクターは違和感なく見れました。特に綾野剛演じる安室行桝の単純に割り切れない悪役ぶりは素晴らしかったです
またAV女優マネージャー・夏目ナナの「死んだら意味ない」も素直に心にしみました。
 
 
岩井監督の現代を切り取る視点はとても優れていると思いますし、とても楽しめました。
ただ良くも悪くも淡い映画で、痛切に重たいものを残してくれる映画ではない気がしました。